『変身』(カフカ)

目を覚ますと、巨大な毒虫のなってしまった男の物語です。

巨大な毒虫になってしまった男が、一番最初に気にしたこと。

それは、仕事に遅刻してしまうことでした。

4人家族の一家の働き手は自分だけ、両親には借金があり、外交販売員の仕事をやめるわけにはいかない――。

そんなことを考えている状況ではないはずなのに、彼は手足をむりやり動かし、布団から這い出ようと努力します。

おかしいですよね。

まず、虫になってしまった状況を嘆かなければいけないはず。

仕事なんてどうだってよいほどの窮地に追い込まれてしまったはず…。

人間は本当に追い込まれると、冷静に物事を見極められなくなるのかもしれません。

本書の主人公、無視になった青年・グレーゴルの思考は、一貫して冷静で、それがとても不気味でした。

逆に、巨大な虫になってしまったグレーゴルを見た家族は、パニックになります。

そして驚いたことに、誰も彼の味方をしません。

グレーゴルはとても妹思いで、彼女を学校に行かせるために頑張って働いていた。

結局妹が虫になってしまったグレーゴルの世話を担当するのですが、それはとても適当でぞんざいなやり方でした……。

食べるものが、腐りかけた野菜やチーズになってしまったグレーゴル。

父親にも母親にも存在を傷つけられるか、無視されるようになってしまったグレーゴル。

それはまさに「悲劇」でした。

ですが、世の中には「悲劇」としか言えない状況が度々起こります。

希望なんて全く持てない。

絶望の中に一人ポツンと置かれて、ただ闇の中で耐えるしかない状態……。

本書を介護問題やブラック企業に例えて読む人もいるそうです。

『変身』が読者に投げかけてきたとんでもない絶望は、私達の生活からそう遠い所にはないのかもしれません。

意外と身近に潜んでいる問題なのかもしれません。

そう考えると、何だか怖くてたまらなくなりました。